PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
試写

ボクが所有しているマイクロレンズは、「AiAF Micro Nikkor105mm f/2.8D」という等倍マクロであるが、これの発売年月日は1993年と、発売から22年も経過しているもはや完全な旧型レンズである。ピント面の解像力については不満は無いのだが、ボケ味をはじめ不満なところがかなりあるので、マイクロ系はいつかは更新が必要なレンズなのだ。

順当に考察すれば次なるマイクロレンズの筆頭候補は「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」、「AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED」の2本が挙げられるが、奥までピントを合わせるためには絞り込まなければならず、絞り込むとシャッター速度が遅くなる・・・、もしくはISO感度が高くなってしまう、いくら絞っても被写界深度に限界があるなどの難点があるが、そのような特性は今まで使っていた「AiAF Micro Nikkor105mm f/2.8D」やその他のマクロ系レンズと全く同じである。

しかしながらニコンのカタログを開いてみると、絞りを使わずして被写界深度をコントロールできる特殊なレンズがある事に気がつくだろう。それこそが「PCレンズ」と呼ばれているシリーズである。PCという単語はパースペクティブ・コントロールから来ているのだが、「あおり」を使ってパースペクティブをコントロールできる事が最大の特徴となっている。

もちろん、昔から「PCレンズ」なるものがカタログ上に存在している事は知ってはいたが、ボクの中では自分には関係ない特殊なレンズとして、検討の俎上にも上がった事のないものであった。しかしながら、先日の「あおり補正」の記事を書くにあたって「PCレンズ」について調べた結果、「実はこのレンズ、ボクが今まで認識していたマクロの常識を覆す最終兵器に成り得るのでは?」と思うようになってしまったのだ。

PCレンズについては風景・建築物写真・ポートレート・マクロ撮影などの用途が思いつくが、撮影倍率は等倍には届かないハーフマクロ、特殊な機構がゆえにAFは使えずマニュアルフォーカスのみ、一見すると絞り環がないGタイプレンズに見えるがよく見ると銅鏡中央部、ピントリングの隣りに絞り環があり、これはDタイプレンズなんだと気付かされる。数か所につまみがあり、それをグリグリ回す事によってあおる事が可能。

脳内では色々な妄想が浮かんでは消えるが、実際に使ってみない事には何も分からない。と、言うわけで思いついたが吉日、ニコンセンター・クアラルンプールまでクルマを走らせ、実際に「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」を試写させて頂いた。期待に胸を膨らませながら初めて使ってみたが、これがまたかなり特殊。ボクが思っていた以上に取り扱いの難しいレンズだった。


機種 D4 「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」

このカットは、完全ニュートラル状態で撮影した一枚であるが、AF機構が無いのでマニュアルフォーカスが要求される。ファインダーをのぞきながらピントリングを操作するが、F1.4の明るいファインダーに慣れているボクにはF2.8ではファインダーが暗く感じられ、そもそも目が悪いボクにはどうしても瞳にジャスピンをゲットする事が出来ない。そこでLVモードの拡大鏡マニュアルフォーカスを用いて瞳へのピント合わせを行った。

静物・風景や、プロのモデルならマニュアルフォーカスでも全く問題ないが、落ち着きのない子供相手に瞳へのジャスピンを得るのは至難の業。この、マニュアルフォーカス限定という時点でボクにとって難度が飛躍的に上がるレンズなのだが、このレンズはこれだけじゃない。
レンズ PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
露出モード 絞り優先オート
絞り F2.8
露光時間 1/100s
ISO感度 ISO450 (自動制御)
露出補正 0
測光モード マルチパターン測光
焦点距離 85mm
AFモード LVモード拡大鏡マニュアルフォーカス
ピクチャーコントロール スタンダード
三脚 手持ち

機種 D4 「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」

このカットはあおりを入れながら撮影したものになるが、同じ絞り値・同じ構図にもかかわらず、奥の75という文字のボケ量が小さくなっている事が分かる。これはマクロ撮影時に、絞り込まずとも被写界深度を深く出来るという事であり、これは本当に便利な機能だと思う。

しかし、奥の背景のボケ量が小さくなっているのにもかかわらず、向かって右側の顔の部分や、ピースしている手指も大きくボケている。このレンズ、あらゆる方向にウネウネ回転するのだが、このカットをどのようにあおって撮影したかは全く覚えておらず、特性を理解せずメチャクチャなあおりで撮るとこのようになるっぽい。

ちなみにあおる際のつまみ部が小さくて使っているうちに指先が痛くなってくる。温かい時期ならいざ知らず例えば冬の寒空の中で使うには、もっとデカいつまみが欲しくなるのでは?と思った。
レンズ PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
露出モード 絞り優先オート
絞り F2.8
露光時間 1/100s
ISO感度 ISO1250 (自動制御)
露出補正 +1.0
測光モード マルチパターン測光
焦点距離 85mm
AFモード LVモード拡大鏡マニュアルフォーカス
ピクチャーコントロール スタンダード
三脚 手持ち

機種 D4 「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」

これは逆にピント面がごく狭くなるようにあおって撮影したカット。一枚目と比較して75の文字が大きくボケている事が分かる。このように、絞り値を変えずしてボケ量をコントロールできるのはボクの中ではかなり新しい経験だ。

ちなみに絞り値の決定に関しては、ボディ側のコマンドダイヤルをグリグリ回しても変更する事が出来ず、レンズ側の絞り環を操作する事になっていた。通常のレンズは絞り環がボディとレンズの境界部にあって操作しづらいが、このPCレンズは絞り環がレンズ中央部にあるため非常に操作しやすいのが印象的だった。
レンズ PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
露出モード 絞り優先オート
絞り F3
露光時間 1/100s
ISO感度 ISO4500 (自動制御)
露出補正 +0.7
測光モード マルチパターン測光
焦点距離 85mm
AFモード LVモード拡大鏡マニュアルフォーカス
ピクチャーコントロール スタンダード
三脚 手持ち


機種 D4 「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」

マニュアルフォーカスや絞り環の操作はまだ良いとして、このレンズの取り扱いを最も難しくさせているのは露出決定だと思った。

通常はレンズを装着して、何も考えずシャッターを押せば想定の範囲内に露出が収まり、大外れするような事はまず無いのだが、このレンズは違う。

あおった状態でそのままシャッターを切るとこのようなカットを連発するようになる。完全に露出オーバー。
レンズ PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
露出モード 絞り優先オート
絞り F3
露光時間 1/100s
ISO感度 ISO3600 (自動制御)
露出補正 0
測光モード マルチパターン測光
焦点距離 85mm
AFモード LVモード拡大鏡マニュアルフォーカス
ピクチャーコントロール スタンダード
三脚 手持ち

機種 D4 「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」

今度は完全に露出アンダー

完全にニュートラルな状態で撮影する分には通常のマルチパターン測光が割り出した露出で全く問題ないのだが、あおると正確な測光が不可能になり、露出オーバーや露出アンダーとなってしまう。

つまり、撮影手順としては露出計を片手に撮影開始するか、ニュートラルな状態で測光した露出をマニュアルモードにて固定し、それからあおり撮影をする必要がある。

ただでさえ目を赤くしながらマニュアルフォーカスで苦労しなければならないと言うのに、露出まで手動となるとやる事が多すぎて撮影テンポが重要な子供撮影には使えない。
レンズ PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D
露出モード 絞り優先オート
絞り F3
露光時間 1/100s
ISO感度 ISO400 (自動制御)
露出補正 0
測光モード マルチパターン測光
焦点距離 85mm
AFモード LVモード拡大鏡マニュアルフォーカス
ピクチャーコントロール スタンダード
三脚 手持ち

今回初めてPCレンズに触れさせて頂いたが、こんなに扱いが難しいものだとは思わなかった。何が難しいかって、まずマニュアルフォーカス。1mm単位の被写界深度で勝負している中、動き回る子供の瞳にマニュアルフォーカスでジャスピンを得るのは至難の業。子供撮影は子供を乗せていくような撮影テンポというものがあり、子供に対して「動くなぁ!」とか言いながらマニュアルフォーカスで撮影するのはやっぱり無理ゲーである。

次に、あおると露出アンダーになったり、露出オーバーになる事。めぐるましく背景や構図が変わる子供撮影シーンにおいて、毎回レンズをニュートラルにして測光し、その結果をマニュアル露出で固定して、その次にあおりながら撮影を開始しつつマニュアルフォーカスで・・・、といった時間が全くない。最低限の撮影テンポを保つには、オートブラケット機能を用いて5枚くらい爆速連写して後選別に頼る方法が必要だ。しかしながら、ボクが現在使用しているD4は10枚/秒撮影なので、5枚のオートブラケットを行うには0.5秒を要する事になるが、一瞬だけ見せる魅力的な表情は0.5秒も続かないのが問題だ。子供のしぐさ・表情を捉えようとしている中で、0.5秒のタイムラグは果てしなく痛い。もっと言うと、そこまで苦労して撮ったカットでも「瞳にピントが合っている確率」はめちゃくちゃ低い。

総じて考えると、AFで完全瞳にジャスピン、手ブレなし、被写体ブレなしで子供のしぐさ・表情をうまく捉えるだけでも超大変の低歩留まりなのに、それに加えてマニュアルフォーカスで完全に瞳にピントが合っており、しかも露出も当たっていて、あおりによるボケの設定も思い通り、背景の処理も完璧で・・・なんてカットが撮れる確率を計算してみると・・・、ボクの経験上それは限りなくゼロだと断言できる。

PCレンズで撮影された作例を見てみると素晴らしいものがあるが、それはレンズの特性を知った上での完全上級者向け。百聞は一見にしかず。思いつきで子供撮影に使ってみたい・・・というレベルの代物ではない事が良く分かった。しかしそれでも、子供撮影に使えなくても建築物・マクロ撮影には使えるな・・・なんて邪(よこしま)な心を払拭するのに苦労しているんだ。

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